村が不動産屋になることでできる地域振興策

大桑村議会議員

(1)企業誘致を村が主体になって、直接的にできる。

 企業誘致は、他人任せや他力本願でできるものではありません。まずは、企業に立地できる場所を提示する必要があります。立地する場所は、企業が自分で探せでは、田舎の村に来てくれるはずもないし、検討すらしてくれません。
 村が不動産屋になって、今まで企業がしていた、わずらわしい土地探しや地権者調整、立地するために必要な官公所への申請手続き等の事務を、村が肩代わりしてあげることです。
 観光旅行で、村に来てもらうわけではないのですから、大桑村は良いところだから来てくださいと、ただ、大桑村を宣伝しただけでは、企業は来てくれません。

(2)村への持家による居住促進を、主体的に推進することができる。

 企業誘致も居住促進も同じで、企業誘致と同じように、村が主体的に行わなければできるものではありません。不動産屋もハウスメーカーもない村で、個人がどうやって土地を探し、家を建てることができるでしょうか。企業誘致と同じように、村が不動産屋になって、土地探しや住宅を建設するために必要な調整をしてあげることです。
 企業誘致と違って、持家による居住促進で一番大事なことは、お金の心配がなく持家できるようにしてあげることです。
 市町村は、居住促進ということで、賃貸住宅を建設していますが、賃貸住宅では、本当の居住促進にはつながりません。それは、賃貸住宅の人は、あくまで仮住まいなので、都合が悪くなれば、すぐに、より条件の良い市町村に引越してしまうからです。
 住宅が必要となるのは、大体が結婚した時とか、子供が生まれた時です。また、そのほとんどの人が、借家ではなく持家を希望します。しかし、若い子育て世代の人には、持家が持てるほどの貯蓄も収入もありません。銀行の融資を受けようと思っても、給料が安ければ、住宅建設に必要な金額の融資も
受けられません。また、融資を受けられるとしても、借入金の返済を考えて、住宅建設するのを躊躇してしまい、やむを得ず、賃貸住宅を選択することになるのです。
 そこで、村が不動産屋、ハウスメーカーになって、30年、40年の住宅の割賦販売をしてあげるのです。30年、40年の長期の割賦販売になれば、賃貸住宅の賃料と同じか、それ以下の支払いで、持家ができることになります。なりよりも、お金の心配をすることなく持家ができます。そのような長期の住宅の割賦販売は、民間のハウスメーカーにはできませんが、村ならできます。
 持家の人は、賃貸住宅の人とは違って、都合が悪くなっても、たとえ行政サービスが悪くなったとしても、他の市町村に移転しないで、村にずーと住み続けてくれます。村に住んでいてくれる間は、村に住民税が入ります。不動産屋で儲け、住民税で儲け、更に、村への居住促進が図られ、一石三鳥の方策です。

(3) 空き家対策を村が主体的に進めることができる。

 建物は、どんなに新しくても、借りてくれたり、買ってくれたり、利用してくれる人がいなければゴミと同じです。解体して処分する以外にありません。借りてくれる人や、買ってくれる人を探すにも、個人がすることはできません。だから、不動産屋に頼む以外にはありません。しかし、大桑村にも木曽郡下にも不動産屋は1軒もないのです。また、あったとしても、不動産屋は、目先の利益を求め、より儲かる仕事の方にシフトしますから、必要なことでも、儲けの少ない仕事はしてくれません。だから、儲かる、儲からないの視点ではなく、村が、政策的見地から不動産屋になって、空き家問題を主体的に解決していくことが必要です。
 また、空き家を売りに出すにしても、買い手や借り手のニーズに合わせたリホームをしないと、なかなか流通に乗せることはできません。しかし、リホーム等を、所有者個人がすることは、なかなかできませんから、村が空き家を安く買い取り、リホームして、売りに出すことなども必要です。例えば、空き家住宅をリホームして、住宅として安く分譲することもできますし、村営住宅として、賃貸することもできます。また、家庭菜園付別荘としてリホームし、都市部の人に分譲したり、貸し付けたりすることもできます。古民家や空き家住宅等を、民宿や飲食店等にリホームし、観光資源にすることもできます。空き家問題が解決するだけでなく、不動産屋としての利益が得られ、観光振興や地域の活性化も図ることができます。

(4)所有者不明の土地や相続等で引き継ぎ手のない土地をなくすことができる。

土地は、建物のように、壊して捨てることができません。だから、土地は誰かに、引き継いでいってもらわなければなりません。しかし、利用価値のない土地を引き継いだとしても、土地所有者は、固定資産税を、ただ負担し続けるだけです。相続人が土地を村に寄付しようと申し出ても、使い道のある土地は、受けてくれる場合もあるようですが、原則、村に受け取ってもらうことはできません。村が利用価値のない土地を引き継いでも、村にとっても、何のメリットもないからです。
 過疎地の村では、宅地、農地、山林の村外地主が増えています。人口が減った分だけ、相続により村外地主が増えるのは当然のことです。そのため、過疎地の村では、村外地主の相続手続きがなされないことによる、引き継ぎ手のない土地(登記手続きがなされない土地)がどんどん増えています。預貯金や有価証券など、お金に換えられるものはきちん相続するのですが、土地の登記はしないでいる人が多いのです。村内地主であれば、村に死亡届けがされた時に、相続人を特定することができますが、村外地主の場合は、村は村外地主が死亡したことも、相続人を把握することも、すぐにはできません。
 また、村は、固定資産評価額が30万円を超えるものについては課税しなければならないので、村外地主の相続人の戸籍を追って、その把握に努めます。しかし、評価額が30万円以下の課税されないものについては、村は、相続人の把握はしません。大桑村の場合、山林、原野については、3ヘクタールくらいまで、固定資産評価額は、30万円を超えません。そのため、大桑村では、山林、原野については、相続されていない土地が、既に、相当数あるとのことです。
 村外地主の相続の時、子供などの相続人がきちんと相続してくれればよいのですが、子供のいない方もいます。また、村外地主の相続人は、その山林、原野の土地が、どこにあるのかもわかりません。利用価値がなく、売ることも、お金に換えることもできない、ただ、固定資産税だけを、払い続けなければならない土地を、誰が相続するでしょうか。お金をかけて、登記手続きをするでしょうか。この引き継ぎ手のない土地は、将来どうなっていくのでしょうか。大桑村の約9割の土地は山林です。空き家は、誰の負担で壊すかの問題があったとしても、壊せば問題が解決しますが、引き継ぎ手のない土地の問題は解決する方法がありません。
 令和6年4月から相続登記が義務化されます。罰則規定も設けられます。しかし、民法では相続人のいない財産は、国に帰属するとされており、所有者不明の土地は、いわば相続人のいない土地であることから、財務局が国に名義を変更すれば済むことではないかと思います。
 しかし、所有者不明の土地を国名義にしようとすると、境界確定や測量等、相当の費用と労力が必要になります。更に、国名義にすると、国は、その土地を適正に管理しなければならない責任が生じます。所有者が管理できない土地を国が管理できるわけがありません。
 この相続登記の義務化は、土地に資産価値があり、土地をお金に換えることができる、都市部では意味があるかもしれませんが、土地に資産価値がない、田舎の村では、国の責任と負担を、相続人に転嫁し押し付けているだけのことだと思います。
 私は、所有者不明の土地の問題解決は、公有地化しかないと思います。所有者不明の土地や相続人がいない土地については、その土地が所在する市町村に帰属させるという、法整備をする必要があると思います。また、相続人が相続を希望しない土地で、市町村に寄付を申し出ているものについて
は、市町村は積極的に寄付を受け入れ、公有地化を図ることが必要です。

(5)木曽の林業を復活させることができる。

 大桑村は、昔は林業で栄えた村です。私が子供の頃は、山林を30町歩、40町歩も所有していれば、皆から、お大尽と言われたくらいです。しかし、今は、木曽檜を切り出しても、3割赤字になる時代で、林業が成り立たなくなっています。だから、山を手入れすることもなく、放っておく以外にないのです。
 今は、木曽檜で有名な木曽でも、山林は、資産価値のない土地になってしまいました。木曽の山林は、江戸時代は天領とされ、木曽川の水源として、中京圏への水の供給と治山治水の役割を果たして来ました。山林が林業の生産基盤としての価値があるときは、利益を得ている山林の所有者が管理するのが当然のことです。しかし、今は、生産基盤としての役割がなくなり、治山治水と自然環境の役割が主になっています。受益者負担の原則から言えば、今は、山林は、治山治水の責任者である国が管理すべきものだと思います。私は、所有者が管理できなくなった山林は、公有地化して管理・保全する以外にないと思います。
 毎年、山崩れによる土砂災害が、各地で発生しています。国は、積極的に山林の公有地化を進め、山林を保全し、治山治水と土砂災害の防止に、取り組むべきだと思います。しかし、国が自ら公有地化し、管理することはできないので、国は、市町村に対価を払って、山林の公有地化と管理を委託することになります。この国が支払う、山林保全のための対価が、田舎の小さな村が、生き残るための資源になるのかもしれません。また、大桑村の場合、この国からの対価を使って、衰退してしまった木曽の林業を復活させるのも夢ではないかもしれません。